「ふーん……なら、仕方ないか。じゃあ、唇以外にね」
そう言って、相馬は優弥の頬や首筋へと唇を寄せてきた。
(別にキスが嫌いなわけじゃないけど……)
千歳には数え切れないくらいキスさせていたし、自分から仕掛けていったことだってある。
でも、なんとなく相馬とはキスをしたくなかったのだ。
千歳のキスは、いつもそれだけで優弥の理性を壊していく。
一度、唇を重ねてしまうと、どうしてももっと欲しくなるし、それ以上のことを望んでしまう。
(本当に相手の身体を望んでいたのは俺の方だ)
普段は会話すらしない自分達だったが、抱かれている時だけは千歳を独占出来た。
低くて甘い声も、優しい瞳も、力強い腕も。
全てが自分一人へと向けられている、あの時間が優弥は大好きだった。
会えない時が不安で、少しでも長く千歳を繋ぎ止めておきたくて、最近では頻繁に呼び出すようになっていた。
「何考えてるの? 会長」
千歳のことを考えて、上の空になっていた優弥に気づいたのか、喉元に顔を埋めていた相馬が聞いてきた。
「別に……」
「じゃあ、今は俺のこと考えて」
そう言って相馬は優弥の首筋に強く吸いついてくる。
「っ! 痕、残すな」
「なんで? ここ……誰かの痕、付いてるよ」
第二ボタンまでを外されたシャツの胸元から見える鎖骨を、相馬に指さされる。
「え……?」
普段、千歳がキスマークを残すことなんてなかったのに、そこに痕があるということは、千歳以外には考えられない。
(なんで……?)
優弥が不思議に思っていると、その鎖骨の痕を相馬に舐められた。
「あっ……!」
その途端、身体の中を何かが走り抜け、優弥は小さく声を漏らした。
決して気持ちよかったわけじゃない。
身体を走り抜けたもの……それは明らかに嫌悪感だった。
千歳には一度だって、そんなものを感じたことはない。
「やめっ!」
一度感じてしまったその感覚は、とても我慢出来るものではなかった。
優弥は相馬の肩を押して、自分の上から引き離そうとした。
「何? 気持ちよくない?」
そう言って、相馬は鎖骨に舌を這わせたまま、ワイシャツの上から胸の突起に触れてくる。
「やだっ、気持ち悪い……!」
優弥の言葉に相馬の動きが止まる。
そして、鎖骨から顔を離して言う。
「何それ……俺の愛撫じゃ感じないってわけ?」
「……感じない。だから、止めろ」
表情の消えた相馬が怖かったけれど、優弥はそう告げた。
やっぱり千歳以外に抱かれるなんて、無理な話だったのだ。
「そんなこと言われて……止められると思う?」
「相馬……?」
急に今までのトーンと変わった相馬の声に、優弥の背筋に冷たいものが走り抜けた。
「俺がお前の相手してる他のヤツよりも下手だって言いたいわけ? 女王様だかなんだか知らねーけど、いい気になってんなよ」
「……女王様?」
そういえばさっきもそんなことを言っていたような気がする。
優弥が何のことだかわからずにいると、相馬は笑いながら言った。
「なんだお前、自分が学園内でなんて呼ばれてるのか知らないのか? 何人もの男を手玉にとる『学園の女王様』……有名だぜ。どうせ生徒会役員のやつらともヤッてんだろ?」
(何人もの男を手玉にとる……? 生徒会役員とやってる……? 高瀬が言っていたのはこのことだったんだ)
優弥がつい意識を他へと向けてしまった隙に、相馬は優弥から外したネクタイで優弥の両手首を頭の上で一つに結わってしまった。
「や、やだっ、離せ!」
ネクタイを解こうとするが、よほど強く結ばれているらしく解ける気配はまったくない。
「そんな口きけないくらい、気持ちよくさせてやるよ」
その途端、優弥のワイシャツの前が強引に開かれ、残されていたボタンが弾け飛んだ。
(いやだ……怖い……)
「やだ、高瀬っ!」
優弥は咄嗟に千歳の名前を呼んでいた。
それに対して相馬の態度が明らかに豹変する。
「高瀬って、高瀬千歳のこと? ふ~ん、あいつのお手つきか……だったら、なおさら許してやれないな」
逸らそうとしている顔を乱暴に掴まれ、相馬の方へと向かせられる。
「高瀬のやつ……一年のくせに生意気なんだよ」
そう言うと相馬は、嫌がる優弥の唇へとキスをしてきた。
(いやだ!)
「んっ!」
なんとか抵抗しても、すぐにまた相馬に捕まって、さらに深く重ね合わせてくる。
「ん、んんっ!」
(……いやだ、気持ち悪い。高瀬以外の男となんて考えられない)
お願い。
助けて……高瀬!