『保健室』
それだけを打ち込んだスマホ画面を、優弥は再度確認した。
そして、ゆっくりと両手の親指で送信を押す。
『送信完了しました』
その文字に、だんだんと優弥の鼓動が速くなってくる。
もうすぐここに、ミルクティーを持って彼がやってくるはず。
優弥はスマホをカバンにしまうと、ドキドキしながら保健室のドアを見つめていた。
(大丈夫、絶対にあいつは来る。今まで来なかったことなんて一度だってなかった)
ガラッ……と、保健室のドアが開いた。
「お待たせ、深海」
そう言って千歳はいつものように現れる。
その手には、やっぱりいつものようにミルクティーの缶が握られていた。
優弥はつかつかと千歳に歩み寄ると、千歳のネクタイを引っ張り乱暴にキスをした。
優弥が自分から舌を入れると、千歳は戸惑うことなくそれを絡め取ってくる。
千歳が色々な異性と遊んでいるのは優弥も知っていたけれど、まったく動揺しない千歳の態度がいかにも慣れていると証明しているようで悔しい。
「満足させろよ」
唇を離した優弥が言うと、いやらしい笑いを浮かべた千歳は、持っていたミルクティーと外した眼鏡を机に置いた。
「お任せください」
そう答えて、千歳は優弥をベッドへと押し倒してきた。
「……っ……」
千歳の指が優弥のシャツのボタンを外していく。
それだけで、自分の中の緊張と期待が高まっていくのが優弥にはわかった。
ボタンを全部外した千歳は、シャツの前を全開にして胸の突起を口に含む。
「んっ……」
最初は優しく唇と舌で愛撫された。
その感覚に優弥が浸っていると、軽くそこに噛み付かれて優弥の身体が跳ねてしまう。
「んあっ……!」
抑えられなかった声が優弥の口から漏れる。
その途端、千歳の口が離れていった。
「あっ……」
「もっと舐めて欲しい? 深海が可愛くお願いしてくれたら、続けてあげるけど」
目が合った千歳に意地悪くそう言われて、優弥はつい意地を張ってしまう。
「誰が……するかよ。お前が舐めたいって言うなら、舐めさせてやるけど?」
「素直じゃないなぁ」
千歳はクスッと笑うと、さっきとは逆の方へと舌を這わせ、さっきの箇所は指で摘んできた。
「あ……んっ……」
「ここ、深海好きでしょ?」
「馬鹿、そのまま……喋んな」
舐めながら喋る口と指に、優弥は完全に翻弄されてしまう。
千歳の優しい愛撫に優弥の身体はどんどん熱くなっていくが、決定的な刺激ではないのが、すごくもどかしい。
「あっ、お……女じゃ、ないんだから。そこばっかり触って……楽しいのかよ……んっ」
いつまでも胸ばかりを弄っている千歳を、優弥は睨んだ。
女と違って膨らみも柔らかさもない胸を弄ったって楽しいとは思えない。
「お前が、いつも抱いてる女達と……お、同じ扱いしたら、許さない……からな」
優弥がそう言うと、千歳は小さく笑みを零し、胸から離れて優弥の上に覆い被さるように、耳元に口を寄せてきた。
「ん~、そうじゃなくてさ、結構楽しいよ。だって、ここ弄ると……」
「んあっ」
千歳の手が制服越しに優弥自身に触れてくる。
「深海、すっごく感じてくれるから」
熱い吐息とともに耳元で囁かれ、優弥はゾクッとした。
(ずるい……。普段は軽めの口調で、胡散臭そうなことばっかり言うくせに、こんな時にマジな声でそんなセリフ言うなんて……)
「ほら、今も自分から腰押し付けてきてるの、気づいてる?」
「え……」
千歳に指摘されて、初めて優弥は自分の痴態に気づかされた。
顔が熱くなり、きっと赤くなっているはずだと自分でもわかる。
「ああ、もうっ!」
いきなり千歳が声をあげて、痛いくらいに抱き締めてきたかと思うと、そのまま思いっきりディープなキスをされる。
「んっ、んんっ!」
千歳の唇が離れたころには、優弥は軽い酸欠状態になっていた。
「深海……お前、可愛過ぎる」
そう言って、優弥はギュッと千歳に抱き締められた。
その背中に腕を回したかったけれど、優弥は力が抜けてしまって無理だった。
「汚すとまずいから、脱ごうか」
千歳が優弥の身体を起こして服を脱がせていく間も、優弥はされるがままになっていた。
「シャツ……皺になる」
ワイシャツだけを残した姿にされた優弥は千歳を睨んで小さく文句を零した。
それでも千歳はそれ以上は脱がす気がないらしく、平然と言葉を返してくる。
「シャツくらいなら替え持ってくるからさ。シャツ一枚って感じが、なんか色っぽくて。もうちょっとサイズが大きいと、よりいい感じなんだけどなぁ」
「……スケベ」
千歳の言い方に恥ずかしくなった優弥は顔を伏せてしまった。
すると千歳は、優弥の両頬に手を添えて上を向かせると軽く唇を合わせてくる。
「そんな今さらでしょ。そういう深海こそ……」
「あっ」
直に自身に触れられて、優弥の声が漏れる。
「もうこんなにしてるじゃん。ス・ケ・ベ」
すでに反応している優弥のそこを弄りながら千歳が言う。
(……恥ずかしい。自分だけが乱れて高瀬を欲しがっているみたいだ)
千歳は息も乱さず、制服だってまだ着たままなのに、自分はシャツ一枚で喘いで気持ち良くなっているのが悔しくて優弥が泣きそうになっていると、千歳がそれに気づいているのかいないのか、明るい声で言った。
「いいんじゃない? スケベで。二人一緒なんだからさ」
(……一緒?)
優弥が不思議に思った次の瞬間、いきなり右手を掴まれて千歳のズボンの前へと持っていかれた。
「……っ!」
「ね?……俺も深海と一緒。興奮してる」
千歳の言葉通り、そこは熱く反応していて制服越しでも千歳の欲望を右手に感じる。
優弥は速くなる鼓動を誤魔化すように言う。
「お前と……一緒に、すんな……」
「もう、相変わらず冷たいなぁ、深海は」
素っ気無い言い方しか出来ない優弥の言葉を、千歳は笑いながら受け流してくれる。
「服、脱げよ。俺だけなんて不公平だ」
(高瀬も……欲情してくれてるんだ)
そう思うと、優弥は千歳の素肌に触れたくなってきた。
「不公平って……はいはい、わかりましたよ」
千歳は笑みを零して優弥から身体を離すと、ブレザーとワイシャツを脱ぎ捨て、ズボンの前も寛げた。
「ほら、これくらいでいい?」
千歳の適度に筋肉がついたバランスのいい上半身が晒されている。