女王様を救出・3

 ドォォン!
 今までで一番大きな音をたてて、扉が生徒会室内へと倒れていく。
 勢いでドアと一緒に中へと倒れそうになった千歳達を、和彦が支えてくれた。

「優弥、大丈夫か!」

 倒れたドアを踏み越えて、千歳が室内へと入ると机の上に押し倒されている優弥の姿が目に入ってきた。
 優弥は両手を縛られ、ワイシャツの前を開かれた状態で、ズボンも膝まで下げられている。
 だが、下着は脱がされていないようなので、最悪の事態だけは免れたようだ。

「……高、瀬……?」

 優弥は千歳がいることに驚いた様に目を見開いていた。
 とりあえず優弥の無事を確認した千歳は、はじめて相馬へと意識を向ける。

「相馬っ!」

 千歳はそう怒鳴ると、すぐに相馬を優弥から引き離し、その顔を殴りつけた。
 無防備だった相馬は、まともに千歳の拳をくらい床へと倒れる。

「無事か? 優弥」

 千歳は優弥の身体を起こし、縛られたネクタイを外して、乱れた服を直してやった。
 その間、優弥はまだ恐怖が抜けないのか、身体を震わせながら黙っていた。
 無意識に、ワイシャツの前を掛け合わせている優弥の手首には、しっかりと縛られていた跡が残っている。
 そんな優弥が可哀想で、千歳は優しくその身体を抱き締める。

「イテテ……会長だって同意でついて来たはずだけどなぁ。そうだよな、優弥?」

 千歳に殴られた左頬を抑えながら相馬がそう言うと、千歳の腕の中にいる優弥の身体がビクッと大きく跳ねた。
 わざと名前で呼んで、これが同意の上での行為だと言い張る相馬に千歳の怒りがこみ上げてくる。
 優弥を安心させるため、強く身体を抱いてやって千歳は相馬に反論する。

「優弥が本気でお前を拒絶した時から、それはもう同意のものじゃない。お前がしようとしたのは強姦だ!」

 実際、優弥は千歳に助けを求めていた。
 そんなので同意の上なんて認められるわけがない。
 今にも、一触即発な千歳達の空気を生徒会室の外から遮る声があった。

「相馬先輩、諦めた方が賢明ですよ」

 生徒会室前の廊下で待っていた和彦が声をかけてきたのだ。

「騒ぎを聞きつけて、他の生徒も集まってくるかもしれない。あなただって停学や退学なんて騒ぎにしたくないでしょ」

 和彦に限って騒ぎになるような不注意はないと思うが、必ず大丈夫だという保障もない。
 和彦の言葉に、相馬は悔しそうな表情をして千歳達を睨みつけると生徒会室から出て行った。

「今、会長にワイシャツ持ってくるから」
「悪いな、和彦」

 さすがにボタンの千切れたワイシャツで帰ったら、優弥の家の人が心配するだろう。
 千歳は素直に和彦の行為に甘えることにした。
 和彦は「気にするな」とだけ、笑って小さく告げると生徒会室を亮太と一緒に出て行った。
 そうなると途端に、生徒会室の周りが静かになる。

「……優弥」
「……」

 返事をしない優弥の頬に手を添えて、千歳が上を向かせると、その顔は涙で濡れていた。

「もう、大丈夫だから」

 千歳の言葉に、優弥はただ首を横に振るだけだ。
 そんな優弥の姿が痛々しくて、純粋に愛おしくて……千歳は上を向かせたままの優弥にキスをしようとした。
 その唇が重なり合う直前……。

「駄目っ!」

 優弥が拒絶の言葉と、千歳の身体を押し返す行動を示した。

「優弥?」

 明らかな優弥からの抵抗に千歳はショックを受けた。
 これでやり直せると思っていたのは自分だけで、もう優弥は、自分のことなんて嫌いなのだろうか?
 そんなことを千歳が思っていると、優弥が小さく呟いた。

「……れてるから」
「え?」

 小さすぎて、千歳が聞き取れずにいると今度は泣きながら優弥が言う。

「俺、汚れてるから。だから……」
(優弥が……汚れてる?)
「どういうこと?」

 優弥の両肩をしっかりと掴み聞いてみると、優弥は千歳の手を振り解こうと身じろぐ。