女王様へのご奉仕・2 ※

 千歳が初めて優弥を見たのは中等部一年の春だった。
 そのころの優弥は、まだ女王様とは呼ばれていなくて、むしろ背も低く女の子のような可愛らしい顔のどこか守ってあげたくなるようなタイプだった。
 薄桃色の桜の中に立っていた優弥に目を奪われた千歳は、自販機のボタンを押し間違えるほどの衝撃を受けた。

『花の精が舞い降りてきたかと思った……』

 素直な感想が千歳の口をついて出た。
 小学生時代から、年上のお姉さんや学校一の美少女にモテていた千歳だったが、こんなに綺麗で可愛い子を見たのは優弥が初めてだった。
 優弥の警戒した様子を解こうとして、間違えて買ってしまった缶ジュースをあげた時に、うっすら桜色に頬を染めた優弥の可愛さを千歳は今でも覚えている。
 当時「来る者拒まず」な付き合い方をしていた千歳にとって、優弥は初めて自分から目を引かれて興味を持った存在だった。
 今にして思えば、あれが千歳の本当の意味での初恋だったのかもしれない。
 そんな初恋相手と、数年後にこんな関係になっているなんて誰が想像出来ただろう。
 閉じられている瞳のせいで、今の優弥はとても幼く見える。
 まるで中等部のころのようだ。

「ん……」

 無意識に頬を撫でていた千歳の指がくすぐったかったのか優弥が身じろいだ。

「ほら、深海、起きな。風邪引くぞ」

 千歳の言葉にゆっくりと優弥の瞼が開いていく。
 そして、その瞳に千歳の姿を捉えて一言。

「お前、遅いんだよ」

 やっぱり優弥は女王様だった。

「すみませんね、クラスの奴に捉まったもんで……ところで深海、次の授業は?」

 四限目が始まっているこの時間に優弥がここにいるということは、だいたいの予想はつくけれども、千歳は一応聞いてみた。

「俺のクラスは自習になった」

 返ってきたのは予想通りの答え。

「あのな深海……お前のクラスは自習かもしれないけど、俺のクラスは通常授業なんだぞ」
「お前の都合なんて知ったことか」

 呆れたため息を吐きながら漏らした千歳の言葉には、さらに優弥らしい答えが返ってきた。
 素直に優弥に従うのも悔しいので、珍しく千歳は反論してみる。

「これで俺が単位落として進級出来なかったら、お前が責任取ってくれるんだろうな?」
「そういうことはしっかり数えてあるんだろ。この知能犯」

 そう言って、優弥はフッと笑った。
 確かに女王様に奉仕して単位を落とすなんて間抜けなことは出来ないから、千歳はしっかり単位を計算してある。

「……お見通しってわけか」
「お前の考えそうなことだろ……そんなことより、早くこいよ。時間がなくなる」

 そう言って優弥は自分で首のネクタイを抜き取った。
 こんな挑発的な姿に逆らえる奴なんてきっといない。
 たとえ遊ばれているだけだってわかっていても、この魅力には抗えない。
 千歳は、これ以上優弥に何かを言うのをやめた。

(下僕は下僕らしく、女王様が満足いくようにご奉仕させていただきますか)
「では、お望み通りに」

 そう言うと、千歳も自分の制服のネクタイを抜き取り、邪魔になる眼鏡を外した。

 

◆   ◆   ◆

「あっ、んぅ……」

 生徒会室の机の上に横にならせた優弥の口から切なげな色っぽい声が漏れる。

「散々、駄々をこねた割には感じてるじゃん」

 優弥自身を口で愛撫しながら千歳がそう言うと、優弥は潤んだ瞳で睨んでくる。

「うる、せぇ……んあっ!」

 生意気な言葉を遮るようにわざと弱い部分に舌を這わせると、一際大きく優弥の身体が跳ねる。
 自分で生徒会室を指定しておきながら、動きづらいだの、机が硬くて背中が痛くなるだのと散々文句を言っていた優弥だったが、いざ始めてしまえばすぐにこの行為に夢中になっていた。

「はぁ、あ……高瀬……」

 優弥の後ろは千歳の唾液と優弥自身から溢れ出すもので、すでに濡れていた。

「そろそろ、いいか」

 千歳は口での愛撫を続けながら、そっと優弥の後ろに指を一本入れてみる。

「あぁっ……う、んっ!」

 痛みはないらしく、優弥は千歳の指を逃がさないようにギュッとそこに力を入れた。
 きっと無意識の行動なのだろう。

「や……焦らす、な」

 決定的な刺激を与えない千歳に焦れたのか、優弥の腰が動く。
 もう少し焦らしてやろうと思っていたら。

「やだぁ、高瀬……早く……」
(……計算済みか?)

 そう思ってしまうくらい優弥に可愛くおねだりされ、千歳の意思は脆くも崩れ去る。

「一度、先にイカせるか」

 千歳は口と指の動きを本格的なものへと変えた。

「ああっ、んっ、う……」

 途端に、優弥の反応が大きくなる。
 そして千歳の頭に両手をあて、一生懸命に言葉を紡ごうとしていた。

「高瀬、いいから早く、入れ……んっ」

 たぶん優弥本人は千歳の頭を引き離そうとしているのだろうが、力の抜けた優弥の指はただそこに添えられているだけになっている。
 それをいいことに千歳は、解放へと向けて優弥を攻め立てた。

「あ、んんっ……高瀬ぇ!」

 一瞬、背中を仰け反らせた優弥の身体から力が抜ける。

「はぁ……はぁ……」
「深海、大丈夫か?」

 荒い呼吸を繰り返している優弥に声をかけると、優弥はとろんとした瞳で千歳を見上げて、小さく頷いた。

「深海、可愛い」

 千歳が優弥の唇にキスをすると、優弥の両腕が千歳の首の後ろへと回される。
 しばらくその唇を堪能していると、苦しそうに唇を離した優弥が言う。

「早く……欲しい」

 このままヤルのもつまらない。

「高瀬……?」

 急に身体を離した千歳を、優弥が不安そうな声で呼ぶ。
 それには答えず、千歳は生徒会室で一番作りのしっかりしている生徒会長の座る椅子へと移動する。
 そして、用意していたゴムを自分自身へと付けると千歳は優弥に向かって両手を広げた。

「おいで、深海」

 そう言うと、千歳の意図することに気づいた優弥が恥ずかしそうに目を伏せたが、素直に机から降りてそばへと来る。

(深海にとって俺は、その他大勢のうちの一人でしかないのかもしれないけど……)

 こうやって自分を欲しがってくれる優弥はとても可愛い。
 だけど、こんな姿を他のセフレにも見せているのかと思うと、無駄だとわかっているのに嫉妬に似た感情が湧いてくる。

「ああ、そうじゃなくて。後ろ向いて座って」

 向かい合った状態で腰を下ろそうとした優弥を、努めて冷静に言って後ろを向かせた。

「高瀬?」
「今日は後ろから。はい、自分で入れて」

 一瞬、優弥が躊躇う様子を見せたが千歳が何もしないことを悟ったらしく、ゆっくりと千歳自身を飲み込むように腰を下ろしてくる。