第14話 

「なあ、最近、なんや変な写真が出回ってるみたいやけど大丈夫なん?」

 Tシャツの打ち合わせで授業の合間に涼介のもとへと訪れて春樹のクラスに来ていると、そこの生徒である朱雀院南朋がそう聞いてきた。

「なんのこと?」

 涼介と一緒に打ち合わせを聞いていた春樹が南朋へと聞き返すと、それには南朋と一緒にいた東雲龍臣が反応した。

「なんや、藤堂知らんの? 今、雪先生の写真がやたらと出回ってるみたいやで」
「えっ! 俺?」

 突然出てきた自分の名前に、俺は驚いた声を出してしまった。
 すると、南朋が言いにくそうに口を開く。

「ん~……出回ってる言うか、偶然雪先生の写真を持ってる生徒を虎が発見してんけどな」
「それ、どんな写真かわかるか?」

 真剣な様子で聞いた涼介に南朋は胸ポケットから何かを取り出しながら答えた。

「バッチリ、回収済みや」
「はあ? 何でお前が雪先生の写真回収してんの? まさか、雪先生のことが好きとか?」
「はあぁ?」

 東雲の言葉に呆れた南朋と驚いた俺と、焦ったような春樹と涼介の四人の声がきれいに揃った。

「それ、本当なのかよ?」

 とたんに、涼介が南朋へと詰め寄り、その隣では春樹が東雲を責めていた。

「ちょっと龍! しっかり南朋を捕まえといてよ、雪ちゃんに手出したら許さないからね!」
「そんなん俺かて初耳で驚いとんねん!」

 いきなりのみんなの動揺ぶりに俺が呆れていると、俺以上に呆れた様子の南朋が言った。

「なに、みんなでわけわからんこと言うてんねん? 俺が写真を回収したのは確認のため」

 そう言うと、南朋は取り出した写真を机の上へと置いた。

「なっ!」

 それを見た瞬間、俺は言葉を失ってしまった。
 なぜなら、その写真はSIN‐SEN‐GUMIブロマイド用の撮影の時に衣装替えをしている俺が写っていたからだ。
 以前、オキにプライベート用と言われた俺の上半身裸の着替え写真とは違って、今回はバッチリ下着姿が写されている。
 いや、男だから別に見られたところでそんなにダメージはないが、隠し撮りされて、知らないうちにこうして人の手に渡っているかと思うとあまりいい気分ではない。

「虎に確認したけど、こんな写真は撮ってないって。雪先生ファンなだけあって、こんなことで嘘は言わんと思うわ」

 南朋が真剣な様子で説明してくれる。
 生徒がこんなに心配してくれるって言うのに、俺の同僚の教師二人は……。

「……いい写真だねぇ」

 隣で写真を凝視していた春樹と涼介が小さく呟いたのが聞こえた瞬間、俺は生徒の前ということも忘れて、思いっきり二人の頭を陽愛くんのデザイン画の束で叩いた。

「痛い!」
「急に何すんの? 雪ちゃん!」

 二人は叩かれた箇所を押さえながら涙目で抗議してきた。
 先程の呟きが南朋と東雲には聞こえていなかったようで、いきなりの俺の暴力に驚いている。
 こんな時に体裁なんて構っていられるか!

「うるさい、このバカコンビ! とにかく虎が知らなくてもオキ辺りが絶対何か知ってるはずだ。探してくる!」

 開き直った俺はそう告げると机の上の写真を掴み、何かを喋ろうとしている春樹と涼介を放って教室を飛び出した。
 この時間なら授業を終えて、オキは職員室にいるはずだ。
 そう思った俺は全力で職員室へと向かい思いっきりドアを開け放った。

「沖田先生!」

 いきなりの俺の声に職員室にいた他の先生がこちらを見てきたが、それを気にせずオキの姿を確認した俺は一直線にオキのもとへと行く。

「どうしたの? 土方先生」
「これ、どういうこと?」

 俺は驚いているオキの言葉を若干食い気味に聞きながら、オキの机にさっきの写真をバンッと置いた。
 すると、それを見たオキの表情が険しくなる。

「これ……もう雪ちゃんも知ってるんだ。許せないよね、こんな写真を隠し撮りなんて」

 おいおい、お前が隠し撮りについてどうこう言える立場か? 俺の寝顔とか隠し撮りしたくせに。
 そう思ったが、オキの今の言葉にふと違和を感じた。

「ん?……ってことは、この写真、オキじゃないの?」
「当たり前じゃないですか!」

 俺からの問いに、オキが即答で否定した。
 その様子からは嘘を言っているようには思えない。

「こんな写真を撮って、あげくには落として第三者に見せるなんて。雪ちゃんに嫌われるでしょ? あくまでも、俺のは個人のお楽しみ用ですから」

 いや……それもどうかと思いますよ、沖田先生。

「……でも、オキじゃないとしたら一体、誰が……」

 今まではオキが関わっていると思っていたからあまり気にしていなかったが、突然、正体の知れない存在が浮上してきて少し不安になる。
 そんな俺の様子に気づいたオキが優しく声をかけてくれた。

「そんなに心配しないで。販売目的で雪ちゃんの写真が出回ってる感じじゃないし」
「オキ……」

 俺が少しホッとしながらオキの顔を見つめると、安心させようとしているのかオキが励ましてくれる。

「写真部の方でもちゃんと調べてみるから、俺に任せてよ!」
「うん」

 俺が小さく頷くと、オキも安心したように笑った。
 そして……。

「じゃあ、この写真は私が預かっておきますね」

 そう言ってさりげなく机の上の写真へと手を伸ばしたので、俺はすかさずオキの小さな手の甲をペシッと叩く。

「駄目です。これは俺が回収します!」

 強い口調でそう言うと、俺はさっさと写真を自分のポケットへとしまった。
 それを見てオキが残念そうな顔をしたが……こんな写真を誰かに預けるなんて恥ずかしすぎるっての!