第22話 ※

 帰宅すると、まだ他のみんなは帰っておらず、受け取ったプレゼントをリビングに置きっぱなしにするわけにもいかないので、ひとまず俺は自室へと向かった。
 荷物を置いて室内着に着替えてからベッドへと腰掛け、さっき用務員さんにもらったペットボトルのお茶を飲んで一息つく。
 それから、大きめの袋を目に止めて俺はどうしたものか悩みながら、お茶を置く代わりに貰ったプレゼントの包みを手にした。

「……とりあえず開けてみるか」

 しばらく包みと睨めっこしていた俺だったが、覚悟を決めて袋の口のリボンをほどく。
 そして、中から姿を現したのは……。

「テディベア……?」

 そう、袋の中身は首に赤いリボンを巻いている赤ちゃんくらいの大きさのテディベア人形だった。
 そして、そこには「よく見える位置に置いておくと、運気があがります」という風水みたいなアドバイスが書かれた紙が添えられていた。

「俺って、そんなにメルヘンなイメージで見られてるのかな?」

 多少、納得出来ない部分も残るが、とりあえずは言われた通りにベッドからよく見える棚の上へとそれを座らせてみる。

「……どんな少女趣味だよ」

 なんだかこそばゆい感じがして、俺はそのクマから離れてベッドへと戻る。

「…………」

 俺はベッドの上に大の字になると、ぼんやりと天井を眺めて考えてしまう。
 俺にだってこうしてプレゼントをくれる異性がいる。つまり、他の四人だって女性にもてないわけがないんだ。
 それなのに、みんなは俺のことが好きだという。

「俺のどこに、そんな価値があるんだよ」

 せっかく家に戻っても誰もいなくて一人なためか、また俺は答えの出ない問題を考え始めてしまう。
 だが、考えることを放棄したい俺の気持ちが反映されたのか、俺の意識はそのまま深い眠りの中へと落ちていった。
 次に俺が目を覚ましたのは、誰かが俺の部屋のドアをノックしている音によってだった。

「……雪くん? いるの?」
「ん……陽愛、くん…?」

 寝起きでぼーっとしている中、聞き覚えのある声が聞こえて俺はそのまま外へと向かって声をかける。

「どうぞ~、開いてるよ」

 一瞬の間の後、ドアがゆっくりと開き陽愛くんが中へと入ってきた。
 ベッドに横になったままの俺を見て、最初は驚いた表情を見せた陽愛くんだったが、俺が寝起きだと気づいたようで少しホッとした様子で俺のそばまで来る。

「寝てたの?」
「うん、一人でぼーっとしてたら、いつの間にか。陽愛くんは? 今、帰り?」

 俺が聞くと、陽愛くんは俺のベッドへと腰掛けながら答える。

「うん。玄関に靴はあるのに、雪くんの姿が見えなかったから……みんなはまだ帰ってないよ」
「そっか……」

 なかなか起き上がる気になれずに、俺はそのままベッドの上でゴロリと寝返りをうつ。
 そんな俺の姿を見ながら陽愛くんは小さく笑うと、そっと俺の頭を撫でてくれた。
 あ……なんか、気持ちいい。

「まだ眠いの?」
「ん~……少し」
「こういうの珍しいよね。いつもは僕の方が寝てるのに」

 確かに。いつもはソファに座っている俺の横で陽愛くんが寝ていたりすることが多いのに。
 陽愛くんの手が心地よくて、俺はおとなしく撫でられたまま目を閉じていた。
 すると、ふと陽愛くんに名前を呼ばれる。

「雪くん……」
「なに?」

 返事をしながら顔だけを陽愛くんの方へと向けようとすると、顔の前に何か影が近づいてきたのがわかった。
 それが何なのか目を開けようとした瞬間、俺の唇に柔らかい物が重なってくる。

「ん……」

 それが陽愛くんの唇だと気づくまでに、そんなに時間はかからなかった。
 抵抗しなくちゃいけないと頭ではわかっているのに、陽愛くんの舌が侵入してきても俺はその身体を押し返すことが出来ずにいた。
 覆い被さるようにキスをしてくる陽愛くんの両腕に手はかけてみるものの、たいした力も入らずにただ添えられているだけになってしまう。
 その間にも陽愛くんの行動は大胆になってきて、服の裾から陽愛くんの手が滑り込んで直に胸を触られる。

「あっ……ぅん……」

 その刺激に咄嗟に顔を逸らすと、それを追いかけるように陽愛くんの顔が近づき耳を軽く噛まれる。

「はぁ……ん……っ」
「雪くん……」

 大好きな陽愛くんの声で、耳元で名前を呼ばれて身体が震えた。
 やばい……俺ってば、どうしちゃったんだろう。まだ、答えなんて出てないのに……まだ、みんなに何も伝えてないのに……こんな。
 寝起きだからという理由では片付けられないような不思議な感覚に、俺は戸惑っていた。
 それは行為がエスカレートしても相変わらずで、胸を弄っていないもう片方の手が下へと伸びてきても俺は強い抵抗が出来ない。
 完璧に室内着に着替えていたため、スウェットのウエスト部分は簡単に陽愛くんの手の侵入を許してしまう。

「あっ、んぅ……」

 腰を抱き寄せられて下着の上から尻を揉まれ、俺はどうしていいかわからずに陽愛くんの腕へとしがみついてしまう。

「……ぁ……やだ、陽愛、くん……」

 力で抵抗出来ないため、俺はなんとか声を出して陽愛くんへと伝える。
 こんな中途半端な気持ちのまま、陽愛くんとしたくない。
 そんな俺の想いが通じたのか、すっと陽愛くんの手が身体から離れていった。
 俺が恐る恐る目を開くと、陽愛くんが心配そうに俺の顔を覗きこんでいた。

「なんか……いつもの雪くんと様子が違うね。大丈夫?」

 そう聞かれても、俺には何て答えていいのかわからず、とりあえずその問いに頷いた。

「そっか、良かった。無理にしてごめん……」

 そう言って、陽愛くんはそっと俺の目元にキスをしてきた。
 そして、まるで子守唄のような心地よい声で言う。

「みんなが帰ってくるまで、もう少し寝てな……大丈夫、もう何もしないから安心して」
「……うん」

 陽愛くんの手に優しく頭を撫でられながら目を閉じると、再び睡魔が訪れる。
 俺は陽愛くんへと擦り寄るように身体を寄せ、みんなが帰ってくるまでの時間、深い眠りについていたのだった。