「ふあぁ~」
「あらあら、土方先生ったら大きな欠伸しちゃって」
四限目のホームルームを終えて職員室へと戻る俺を見て、一緒に教室から移動していたオキが言った。
「今日、何回もしてるよね。寝むれてないの?」
「いや、そんなことないと思うけど……」
心配そうにオキに聞かれて、心当たりのない俺はその言葉を否定する。
だって、寝むれていないどころか昨日だって家に着くなり寝てしまい、まあ、途中で一回起きたにしても、結局、陽愛くんに寝かしつけられたままみんなが来るまで寝てしまっていた。
だから、むしろいつもよりも寝たはずだ。
「逆に寝過ぎなのかな?」
多めに寝たはずなのにどこかすっきりしない身体を大きく伸ばしながら、俺は職員室の自分の席へと座る。
「疲れてるんじゃない? そろそろ学園祭の準備も本格的になってくるし、もうすぐ週末で休みだし、ゆっくり休んだら?」
自分の席に座りながらそう言ったオキの言葉を聞いて「そうだな~」なんて返事をすると、ふと机の上に封筒が置かれていることに気づいた。
なんだろ、これ。さっきまではこんなのなかったよな。
不思議に思いながら封筒を開け、少しだけ中身を出した途端、俺は驚いて声をあげてしまった。
「うわっ!」
反射的にイスから立ち上がり、俺は手にしていた封筒を机へと放り捨てた。
「なに、どうしたの?」
突然の俺の様子にオキも驚いているようだが、その問いに俺は答えることが出来なかった。
そんな俺を不審に思ったオキは机の上を覗きこんで封筒の存在に気づいたようだ。
「これがどうかした?」
聞きながら封筒を手にしたオキだったが、中身を出した瞬間にその表情が険しいものへと変わった。
「……何だよ、これ」
明らかに怒りを含んでいる声でそう呟くと、オキはしっかり中身を全部確認していく。
封筒に入っていたもの……それは複数枚の俺と陽愛くんが一緒に写っている写真と「嘘つき」と書かれたメモだった。
さらに写真は全てキスをしていたり、陽愛くんに身体を撫でられているような一目見ただけで普通の関係じゃないとわかるようなまずいものばかりだ。
だけど、その写真の内容を恥ずかしがる余裕なんて今の俺にはない。
だって、これって……。
その言葉を口に出すのが怖くて黙ってしまった俺だったが、オキもそのことに気づいたようで、静かに口を開いた。
「これ……雪ちゃんの部屋の中だよね」
「……っ……」
決定的なその一言に、俺の背筋を冷たい何かが走り抜けたように身体が震えてくる。
そう、これはどう考えたって昨日、家に帰ってからの俺と陽愛くんの姿だ。この写真が合成でないことは、俺が一番わかっている。
これが校内とかで撮られたものだったら、オキも「また抜け駆けして!」と陽愛くんを怒っていたはずだ。
でも、そんなことでは片付けられないこの状況をオキもわかっているんだろう。
ここが職員室だということも気にせず、オキは優しく俺の肩に腕を回すと静かにイスに座らせてくれた。
そして、ギュッと俺の頭を抱き締めて言った。
「雪ちゃん、午後は副担任の俺がなんとかするから今日はもう帰りな。理事長達だって今の雪ちゃんの状況ならわかってくれると思うし。一人じゃ不安だろうから、ハルに付き添わせるよ」
「でも……」
学園祭前のこの時期に、こんなことでみんなに迷惑はかけられない。
そう思って断ろうとした俺に、オキは先回りして言う。
「この時期なら、まだ運動部のハルは身動きとれるから大丈夫。俺達もなるべく早く帰るから、そしたらみんなで対策を考えましょ」
「オキ……」
すると、ちょうど昼休みでみんなも職員室に戻ってきたようで、オキは急いで事情を説明しに行った。
そして、すぐに俺の周りに駆け寄ってきたみんなに励まされ、近藤先生に事情を説明した俺は春樹と午後の授業を早退することにした。
たいした距離ではないが、俺のことを気遣って春樹がタクシーを呼んでくれて、俺達はすぐに家へと帰ってきた。
「大丈夫? 雪ちゃん」
俺の荷物を持っていてくれた春樹がそう聞いてくるのに、俺は小さく頷く。
そのまま春樹に手を引かれて、二階へとあがる。
「とりあえず着替えようか」
そう言って自分の部屋へと行こうとする春樹の服の裾を掴んで引き止めた。
「ん、どうしたの?」
「…………」
黙ったままの俺をしばらく見つめていた春樹があっと小さく声を出した。
「俺の部屋においで」
笑顔でそう言われて、俺は素直に頷いた。
だって、あの写真に俺の部屋の中が写っていたってことは、今だってもしかしたら監視されている可能性だってある。
春樹に連れられて、自分の隣の春樹の部屋へと入る。
「今、雪ちゃんの部屋から服持ってくるからちょっと待っててね」
着替えながら春樹にそう言われ、俺はベッドに腰掛けて春樹が服を持ってきてくれるのを待った。
そして、俺が着替えるのと入れ違いに、今度は春樹がベッドに腰掛けて俺が着替え終えると同時に言った。
「はーい、雪ちゃんおいで~♪」
両手を広げてそう言われ、俺は不機嫌そうに春樹に近づく。
「……何よ、急に」
「別に。ただ雪ちゃんにくっつきたいだけ~」
俺が強がっているだけだと気づいているのだろう。春樹は気にした様子もなく、俺の身体を引き寄せた。
それは特に強い力ではなかったが、素直に俺は春樹の腕の中へと身体を預けた。