俺の写真だけかと思っていたのに……この前の陽愛くんとの写真みたいのが、他にもまだあるってことなのか?
もし、そんなものが公開されたら、俺だけじゃなくてみんなにも……。
俺の嫌な予感は、当然用務員の考えの中に含まれていたらしい。
「そんなのを学校中にばら撒いたらどうなるだろうな? 男同士でそんなことしてるなんて……生徒の信頼はなくなるし、当然、保護者達からも非難がくる。そうなったら、お前らはこの学校にいられない。それどころか、教師としての職も無くすかもな」
そう言って嫌な笑いを溢す用務員の姿に、俺はかなりのショックを受けていた。
俺の一番心配していたことが、今現実に起こりそうになっている。
俺がもっと、みんなに抵抗していれば、中途半端に受け入れたりなんかしなければ、そんな写真を撮られることもなかったかもしれない。
俺のせいで、みんなに迷惑がかかる……。
どうしていいかわからずに俺が混乱していると、陽愛くんの口から意外な言葉が出た。
「ばら撒きたきゃ、ばら撒けばいい」
え……?
言葉の意味が理解できなくて、驚いた俺が陽愛くんへと視線を向けると、そこにはいつものほわんとした雰囲気ではなく、真剣な表情で男らしい陽愛くんの姿があった。
「そんなことをしたって、俺達が雪くんを好きな事実は変わらない」
すると今度は、呆然としている俺の両肩を掴んだ春樹が満面の笑顔で俺に向かって言った。
「別に教師やめたって、四人もいれば雪ちゃん一人くらい十分に養えるしね♪ なんなら俺、バンドでメジャーデビューするし」
あまりに予想外の春樹の発言に俺が驚いた視線を向けると、春樹はきょとんとしたように言葉を付け足した。
「あれ? 俺、言ってなかったっけ? 前に音楽事務所からデビューのお誘い受けてたの」
いやいや、そんなの初耳だから!
俺が知らなかったと思いっきり首を左右に振ると春樹は笑いながら『教師になりたいからって断ったけど、実はいまだに連絡来るんだよね~』なんてのん気に答えた。
確かに見た目も格好良いし、人気バンドだったってことも知ってたけど……まさか、そこまでのレベルだったとは。
今さらながらの春樹の意外な一面に俺が唖然としていると、オキはそのことを知っていたようで対して驚く様子も見せずに言った。
「俺も、これを機にゲーム制作の在宅ワークでもいいかな。ゲームとかって、一本当たりを出すと結構な収入になりますからね」
用務員から脅されているというのに、春樹と同じようにオキも全然気にしてないようで、むしろ、どこか楽しそうに今の状況を受け入れている。
なんで……? 俺のせいでこんなことに巻き込まれたのに、なんでみんな、そんな風に言えるんだよ。
俺が心の中でそう思っていると、まるでそれに答えるかのように涼介が用務員へと向かって言った。
「そんな脅しで揺らぐほど俺達の雪乃くんへの想いは軽くないんだよ。それだけの覚悟は好きになった時からもってる」
その言葉に他の三人も頷いている。
……俺、ここまで本気でみんなに愛されていたんだ。
何だか、みんなの想いに涙がこみ上げてきそうになったが、さすがに泣くのはみっともないので必死に堪えた。
すると、涼介に押さえられている用務員へと陽愛くんが近づいていく。
どうしたのかと思っていると、正面まで近づいた陽愛くんはいきなり用務員の胸倉を掴んで言った。
「俺達は学校を辞めたって構わない。でもな、その代わりお前を警察に突き出して、人生を終わりにしてやるから覚悟しとけ」
「…………」
あまりにいつもとかけ離れた陽愛くんの姿に、さすがの俺達ですら驚いて言葉を失ってしまった。
だって、いつの間にか一人称まで『俺』に替わってるし……陽愛くんとは俺が一番付き合いが長いけど、こんな男らしい陽愛くん初めて見た。
そんなわけだから当然、用務員には威力は絶大だった。
その後の用務員は抵抗を諦めたのか『今までの写真を全て回収する代わりに、警察には行かず学校を辞める』という条件を素直に受け入れた。
そのまま、春樹とオキは本人を引き連れ用務員の自宅へと写真を回収しに行き、俺は陽愛くんと涼介と一緒に理事長へと報告をしに行くことにした。
理事長室へと向かって歩いている途中で、前を歩く陽愛くんの背中を見ながら隣りにいた涼介が呟く。
「なんか……山くんって、一番敵にまわしちゃいけない存在なのかも」
さっきまで、散々自分も恐い顔で脅していた涼介のボソッと零したその一言が何だか可愛くて、俺はつい笑ってしまった。
……やっぱり、俺にはみんなが必要なんだなぁ。
いきなり笑い出した俺と笑われたことに照れくさそうにしている涼介に不思議がる陽愛くんを誤魔化しながら、俺はそんなことを思っていた。