第31話

「みんなのおかげで犯人を捕まえることが出来ました。本当にありがとう……では、乾杯!」
「お疲れ様でーす!」

 俺の挨拶とともに、みんなで缶ビールを合わせて一気にあおる。
 無事に、写真回収と理事長への報告を終えた俺達は明日から休みなこともあり、事件解決のお祝いをすることにした。
 後はいつ寝てしまってもいいように準備を終えてからの飲みはかなり遅い時間からのスタートとなってしまったが、計画が上手くいった高揚感のせいか、やたらとテンションの高い俺達だった。
 宅飲みという状況も手伝ってか、ある程度の時間が経つと完全に五人とも酔っていた。
 そんな中、つまみを口に放り込みながら、いきなり春樹が言い出す。

「それにしても、想像以上の量だったね~。アイツの部屋にあった雪ちゃんの写真」
「なっ!」
「大丈夫? 雪乃くん」

 突然の言葉に驚いた俺は危うくビールを噴出しそうになり、涼介が近くにあったタオルを渡してくれた。

「あ、ありがと……春樹、何だよ、いきなり」

 涼介に礼を言ってタオルを受け取った俺は、それで口元を拭きながら春樹を睨む。
 盗撮のことなんか思い出したくもないっての!
 だが、酔っていたせいで大して睨みの効果はなかったようで、春樹は笑いながら言う。

「だって、本当に雪ちゃんまみれだったんだもん。写真見ながら、あのオキが悔しがってたんだよ」
「腹立つことに、構図がなかなか上手いんですよね。盗み撮りなせいか、雪ちゃんの表情やしぐさも無防備過ぎて可愛いし……」

 さらには犯人の技術を褒めるようなオキの発言に俺は恥ずかしさではなく、怒りのために顔を赤くしてしまう。

「へぇ~、どんなのか、僕見たい」
「見ます? 全部、回収済みですからね」

 陽愛くんからのおねだりに、オキは玄関近くにおいてあった紙袋へと向かって這って行く。

「ちょっと、他人事だと思って……!」

 怒ろうとした俺だったが、それを遮るように俺の両肩へと涼介の手が置かれた。

「まあまあ、雪乃くんも自分でどんなの撮られてたのか、ちゃんと確認しておいた方がいいでしょ?」

 結局、涼介も写真を見たかったのか、そう言って俺を宥めようとしてくる。
 涼介なら、俺の味方をしてみんなを止めてくれると思ったのに。
 幼馴染みからの裏切りに俺が地味にショックを受けていると、春樹から予想外の言葉が出てきた。

「ん~……他人事ってわけでもないんだよね。俺達もしっかり写ってたし」

 どういう意味だ? と、思っていると、ちょうどオキが持ってきた紙袋の中身を、つまみなどを退けたテーブルの上へと広げ始めた。

「おっ、この雪乃くん、可愛い」
「この写真、僕欲しいな」

 さっそく、それらを物色し始めた涼介と陽愛くんが楽しそうに写真の山を漁っていく。
 俺も渋々ながら、何枚かの写真へと目をやったが……あまりに恥ずかしくて、すぐに目を伏せてしまった。
 だって、そこにはどこぞのアイドルだよってくらいに俺のプライベート姿が写し出されていたのだから。
 俺の食事姿だったり、着替えなんか撮って何が楽しいんだ?

「あっ、あった!」

 すると、写真の山から何かを探していたのか、春樹がそう言って中から一枚の写真を引き出した。

「ほら、雪ちゃんと一緒にバッチリ俺達も写っちゃってるの」

 その言葉に、みんなの視線がその写真へと向けられた瞬間、俺は言葉を失って赤面した。
 だ、だって……そこには、何時ぞやの風呂場で俺が春樹に襲われかけた光景がしっかりと写されてるんだもん。
 あの時の姿を盗撮されていたとか、みんなにこうして改めて見られてしまったとか……もう、色々なことが頭の中をグルグルと回って軽くパニック状態になってしまう。
 その間にも山の中から他のも発見したのか、俺を襲った張本人は楽しそうに言う。

「この涙目の雪ちゃん、可愛いよね~。でも、この顔されちゃうと、可愛過ぎてこれ以上手出せなくなるんだけど」
「それにしても、風呂場まで盗撮されていたとは油断も隙もねぇな。あ……これ、俺と雪乃くんだ」

 そう言って涼介が引き抜いた写真には、キッチンで背後から涼介に迫られている俺のエプロン姿が写っていた。

「うわ~、新婚プレイってやつですか? さっすが涼くん……エロイねぇ」

 写真を覗き込みながらオキがからかうようにそう言うと、涼介は少しムッとしながら言い返した。

「そんなこと言うけど、俺が我慢してたのに先に雪乃くんに手出したのは誰だよ。これ、あの時のだろ?」

 言いながら涼介が見せてきた写真は、初めてこの家でオキに迫られて涼介の帰宅により未遂ですんだ時のものだった。

「この家のセキュリティ……少し考えた方がいいですね。でも、言っておきますけど一番最初に抜け駆けしたのは、そこのおじさんですからね」

 いきなり話を振られた陽愛くんが、漁っていた写真の山から顔を上げて答えた。

「だって、雪くん鈍過ぎるから。まあ、そこが可愛いと言えば可愛いんだけど。あのままじゃ、何の進展もなさそうだったからな~」

 その陽愛くんの発言をきっかけに、話の流れがおかしな方へと進み始める。

「まあ、確かにあの山くんの行動がひとつのきっかけにはなったよな」
「だね。じゃなきゃ、雪ちゃんとこんなこと出来なかったもん」
「ああ、もう。そんなの見せなくていいよ!」

 風呂場での写真の束を広げながらそう言った春樹の手から俺は写真を奪おうとした。
 なのに、春樹は楽しそうに俺の両手を押さえて笑いながら抵抗する。
 もう、じゃれ合ってるんじゃないんだからな。この酔っ払い!

「でも本当のところ……どうなんですか? 雪ちゃん」
「何が?」

 いきなりオキに聞かれ、俺はやっとのことで春樹から取り返した写真を手に、動きを止めて聞き返した。
 すると、それぞれ俺とみんなが写っている写真を並べながらオキは言う。

「そろそろ答えをくれてもいいんじゃないかなって……こんなに良さそうな顔しちゃってさ」
「なっ!」

 写真に写っている俺の顔を指差しながら言われ、一気に俺の顔が熱くなってしまった。

「そうだな。雪乃くんが覚悟決めるまで待つつもりではいたけど……正直、限界は近いかも」
「僕が迫った時、雪くんあまり抵抗しなかったよね? それって、OKってこと?」
「い、いや、あの時は、睡眠薬のせいで……」

 陽愛くんに迫られ俺がしどろもどろになりながらも説明をすると、さっきから手首を掴まれていた春樹の手に力が入る。

「じゃあ、雪ちゃんは俺達に触られて気持ちよくないの? 嫌だった?」

 聞き方が直球過ぎるだろ!
 そりゃあ、気持ちよくないかって聞かれたら……性的な意味でみんな触ってくるんだから、感じないわけないじゃん。
 俺だって正常な男なわけだし……。
 でも、そんなことを正直に言おうものならどうなるかわからないので、俺は必死に言い訳を探す。