第20話 ※

 俺はワクワクしながら、ドレッシング作りを再開した。
 すると、突然背後に涼介の気配を感じる。

「な、何……?」

 あまりの近さに、俺は戸惑いながら振り返ろうとしたが、僅かな差で後ろから涼介に抱き締められてしまった。

「ちょっ……涼介?」
「我慢しようと思ったけど……そんな可愛い顔されたら、無理」

 耳元に口を寄せ、そう囁かれて俺の鼓動が一気にあがる。
 か、可愛い? そんな顔ってどんなだよ!
 ってか、この展開は今までの経験上、かなりヤバいんじゃないか?

「とりあえず……お、落ち着こうぜ、な?」

 平静を装って宥め、腕から逃げようとした俺だったがさらに腕の力が強くなり完全に逃げられなくなった。

「他のみんなからちょっかい出されてる雪乃くんを見て……俺が平気だったと思う?」
「いや、えっと……やっぱり気づいてた?」
「気づかねーわけないじゃん」

 答えはわかっていたが一応聞いてみると、予想通りの返事が返ってきた。

「しっかり痕までつけられてさ」
「んっ……」

 うなじに軽くキスをされて、驚いた俺の口からは小さく吐息が零れてしまった。

「盗撮の件もまだ解決してないし、雪乃くんも不安だろうと思って抑えてたのに……もう遠慮する必要ないよね?」
「いや、必要だろ!」
「やだ」

 ハッキリと断ったのに、拗ねたように一言呟いた涼介にいきなり頬に手を添えられ強引に顔を後ろへと振り向かされた。
 無理な体勢に苦しいと思うよりも先に唇をキスで塞がれ思考が停止してしまう。
 唇を舌で舐められ、気づいた時には涼介の舌の侵入を許してしまっていた。

「……んっ……ふぁ……」
「……雪乃、くん……」
「あっ……んぅ」

 熱っぽい声で名前を呼ばれて、身体の力が抜けそうになる。
 いつのまに、こんな色っぽい声出すようになったんだよ。

「ちょっと、ドレッシング……危ない」

 涼介のキスから解放され、中身を溢してしまわないように器を置こうとした俺だったが、涼介に両手を添えられ止められた。

「溢さないようにおとなしくしててね」
「えっ、ちょっと……!」

 俺の抵抗も虚しく、涼介は俺の両手を上から重ねるように押さえてそのままうなじへと唇を寄せる。
 そこから下へと移動していき、器用に襟元を僅かに下げるとそこへと強く吸い付いた。

「あっ……おい……!」

 絶対にキスマークがついただろうと思って俺が怒ろうとしたが、重ねられていた片手が離れてエプロンと服の間から胸元をまさぐってきたために言葉が止まってしまった。
 こんなときに、よりによって薄地の部屋着を着ちゃうなんて!……と、今さら後悔したところで遅い。
 涼介からの刺激に俺の胸の突起は布越しでもわかるくらいに硬く主張しだしていた。

「ふふ……可愛い」
「やっ……可愛くなんか……!」

 さらに大胆に胸を刺激され、涼介が自分の腰を後ろから押し付けてくる。
 それから逃げようとしても、前にはキッチンのシンクが邪魔をしてかなわず、それどころか涼介が腰を押し付けてくる度に、そのシンクに俺自身が当たって、変な気分になってくる。
 何だよ、この痴漢プレイみたいな体勢!
 そう文句を言いたいのに、後ろから耳を舐められて胸を弄られると、震える手で器を落とさないようにするのに必死で抵抗も何も出来ない。

「雪ちゃん……好き」
「あ、だめ……」

 幼い頃の呼び方でドキッとするような声で告白され、胸を弄っていた手が下へと移動してきて布越しに俺自身へと触られた。
 これ以上されたら、本当にまずいって!
 そう思って俺が身体を強張らせた瞬間……。

「たっだいま~」

 ガシャン!
 誰かが玄関のドアを開けるのと、俺が落としそうになった器を涼介が押さえて大きな音が出たのがほぼ同時だった。

「疲れた」
「遅くなりました」

 その後、リビングのドアを開けて入ってきたのは春樹、陽愛くん、オキの三人だった。

「いい匂いがする♪」
「お疲れ、三人とも一緒だったんだ。もうすぐ夕飯の準備終わるよ」

 春樹に向かってそう答えた涼介はすでに俺から身体を離していて、なにごともなかったかのようにしれっとした態度でいる。
 さらには、さっきの振動で跳ねたドレッシングで汚れてしまった俺の袖口を指差して言った。

「雪乃くん、一応それ、すぐに洗った方がいいと思うよ」
「あ……き、着替えてくるから」

 平然としている涼介とは違って、何だか居心地の悪い俺は慌ててエプロンを外すと、みんなから逃げるように二階の自室へと駆け込んでしまった。
 そして、赤くなっている顔や変な感じになっている気持ちを落ち着かせるために、俺はしばらく部屋へと立て込もる。
 服を着替えて汚れた袖を洗い終わってから始まった夕食中に、誰も俺の行動へと疑問を投げ掛けてこなかったことが救いで、多少は緊張していた俺だったが無事に夕飯を終えることが出来た。
 次の日の朝、涼介からは謝罪の言葉と美味しそうな弁当を渡され、すでに許しかけている自分に情けなさを感じたまま、俺は学校へと向かったのだった。