奨悟様の身体を綺麗にしてから自室に戻った私は、ずっと伏せてあった貴女の写真を手に取った。
そこには、私がさっきまで抱いていた人と同じ顔の貴女が笑顔で私と並んでいる。
『僕を抱け』
突然の主人の言葉に、私は言葉が出て来なかった。
まるで、私の心を読まれたかのような衝撃だったのだ。
『これは命令だ』
命令……その言葉で私を縛りつける。
奨悟様はズルイ人だ。
そんな言い方をされたら、私が拒めないと知っているくせに。
奨悟様が私と貴女とのことを後悔しているのがわかる。
わざと貴女の代わりに私に抱かれることで、罪を償おうとしていることも。
でも、私は奨悟様に償ってもらえるような男ではありません。
あんなに愛していたはずの貴女への想いは、時が経つにつれて思い出に変わり
貴女のお兄様への想いに入れ代わる。
こんな私を、茉莉亜……
貴女はひどい男だと
薄情な男だとお思いですか?
でも……これが本心なのです。
今の私は、奨悟様に邪な想いを抱くただの男でしかない。
ですが、どんなに奨悟様のそばにいても
どんなに愛おしく想っていても
この想いを主に告げることは許されない。
私達の間にあるものは『命令』なのだから。
――――……。
窓の外で光る雷を見つめながら、私は貴女の写真を元の位置に伏せた……。